サヴィツキー美術館
NHKアーカイブスが始まったところだった。
亀山郁夫が旅する ロシア・アバンギャルドの特集で、
あ、この感じなんか懐かしい、サヴィツキーっぽいぞ、と身を乗り出したら
やはりヌクスの美術館を巡るドキュメントだった。
ヌクスは、アラル海や 船の墓場のあるムイナク への玄関口として知られる
ウズベク西部 カラカルパクスタン自治共和国の首都であるが、
ヌクスの観光の目玉は もう一つ、この サヴィツキー美術館、
ロシア・アバンギャルドと カラカルパク民俗工芸の殿堂である。

↑サヴィツキー収蔵品の中でも有名な Vladimir Lysenko作 「雄牛」
(上 ホームページより)
私がアラル海を訪れた時は 美術館を見る時間がなかったものの、
その後、収集家サヴィツキーの生涯や 美術館の収蔵品 を丁寧に紹介する
ドキュメンタリーが ウズベキスタンFORUM TVで ヘビロテに再放送されていて、
結構 面白かったので ちょっと行った気になる程には観たと思う。
サヴィツキーのインタビューでの いかにも神経質そうな高い声や、
そこにちらちら映る 60年代の女子学芸員達が着ている
アトラスで仕立てた レトロな60’sファッションが衝撃的にカワイかったり、
乙嫁的な民族衣装のコレクションが印象的だった。
しかし私には、その収集された絵の価値はよく分からなかった。
↑の牛がカワイイな、と思った程度だった。
ところが今回 日本語で見ると、その理解度はまるで違うものだった。
1910年代に登場したロシアのアバンギャルドは、
レーニンには革命的と奨励されたのに
1930年代にはスターリンによって規制の対象となっていた。
モスクワやサンクトから多くの芸術家が
中央の目の届きにくかった南国タシケントへ流れてきたそうだ。
薄曇りのドイツの芸術家たちが
アルプスを越えたイタリアの太陽に強く憧れたように、
きっとソビエト人たちも
おおらかでのんびりとしたウズベクの太陽の恵みを
大いに享受したに違いない。
そして地方の貧しい現実を見て
ますます創作意欲をかきたてられたことだろう。
ドッピをかぶったウズじいをモチーフにしたり
外国人がみて あ~いいな~、と思うウズベクの日常を
切り取ったような作品も多く残されている。
ところがそれが 反体制だと言われてしまう時代の波が
ウズベキスタンにも到達してしまう。
多くの画家が木枠からキャンバスをはがし
たたんで丸めて屋根裏に隠さざるを得なかった。
それを60年代以降、サヴィツキーがこっそり発掘し集めていったことで
ロシア本国にもない ロシア・アバンギャルドのコレクションが
出来上がった。
番組は、抑圧された画家の背景を追っかけて
ウズベクの公文書館だけでなく
モスクワやサンクトにまでも飛び かなり深く突っ込んだ
美術ミステリーのようなドキュメントになっており、
ちょっと興奮する出来だった。
これはやはり、アラル海旅行の頃に見に行ったって
まったくその価値も意味も分からなかったはずだ。
高麗人問題などを通じて
すこーし スターリン時代の抑圧の恐ろしさを理解するようになった今だからこそ
アバンギャルドにも ようやくちょびっと興味が持てたというもの。
2/13(木) 0:45~ NHK BS-3
↑ごめんなさい
去年の情報でした
見たい方はオンデマンドからどうぞ
尚、2003年製作なので
タシケントの街並みもちょっと古いし、亀山先生も若い。
美術館の資金難も深刻だと まとめられていたが、
今はフランスなど海外からの支援も少し入っているので
多少だろうけれど 状況は良くなっていると思われる。